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母校でもある東大の空き地にサウンドシステムとステージを組んで大音量でテクノを聞きながらニヤニヤしてた長身の男は、ある日突然、ハンバーガーを売りはじめた。かと思えば、スーツを身にまとい、いまは『街』のことを考えている。

 

音楽が誰かの人生を劇的に変えたり、社会を変えたり、愛を育んだりするなんていうことが本当に起こりうるのか、と、時々 疑問に思う。そしてそこに対してステレオタイプなままに妄信的なひとを見かけると『NO MUSIC』という言葉が脳裏に浮かび、音楽がこの耳に聞こえなくなる。絶望的な気持ちになる。半分折れかけた中指を立てて「そんなことあるわけねーだろバカヤロー」とつぶやく時がある。『NO LIFE』。そのまま天を仰いで昇天。彼らが聞いてるのは誰かが残した残響音に過ぎない。

 

本当に欲しいのは音楽じゃなくて、そういうのは決まってその隣か手前くらいにある。だから 平松 格 とか、ぼくらは時々、音楽が鳴っていても、まるで耳を塞ぐかのように、背を向けて、みんなで倒れるまでそっぽむいたままビールを呑む時がある。それは音楽がイヤなんじゃなくて、音楽の近くにあるそれに乾杯している気分。それってなに。

 

平松格のニュートラル。

PHOTO&TEXT:JUNYA KATO(PARK INC.)

 

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加藤 まずさ…。

 

平松 はい。

 

加藤 先週のケイくん(NEUTRAL#021)もそうだけどさ、なんできみたちは東大なの?(笑)

 

平松 たしかにそうですよね(笑) でも、東大を選んだ理由が2つあって、まず、自分は音楽と洋服が好きな普通の高校生だったんすけど、地元が徳島でしょ? このままここにいたらヤバいぞって。「原宿に行かないと始まんないだろう…」って。原宿って当時、発信基地のイメージがあったし、東京の国立大学イコール『東京大学』でしょ、と。で、2つ目に、家が貧乏だったんすよね。専門学校でも私立でもよかったんですけど、貧乏だから学費が安くて奨学金をもらえる国立しか大学の選択肢がなくて…。

 

加藤 だからって簡単に入れるわけじゃあ…。

 

平松 そうですよね。だから、メチャクチャ勉強しましたね。ひねくれてたんすよね。みんなが受験勉強してる3年の時に「遊び倒してやろう」って思って、高校2年から1年間、勉強しまくったんですよね。先生にどうしたら成績よくなるかって聞いたら、「成果は1年後に出る!」って言われて。で、毎日15時間。血ヘド吐くほど勉強しましたからね。まわりが引くほどやりましたからね。決めたらやるんすよ。

 

加藤 ストイック超えてサイコだね。

 

平松 そう。実は小学校の時に太ってて、じいちゃんに『デブ』って言われたことがあって、3年間メシを食わなかったことがあったくらいなんで、決めたらヤバいくらいやるんすよ。だから、高校入学して、みんなが遊んでる時に図書館に通って…。狂ってますよ。こんなやつイヤでしょう(笑)

 

加藤 そんなヤツいやだし、勉強もイヤだ。

 

平松 ですよね。でも、うちの親父が「勉強しろ」ってぜんぜん言わなかったから出来たんですよね。普通、親って言うでしょ? 「勉強しろ」って。でもうちの親父は自分が親に言われてイヤだったから言うなって、オカンと話してて。でも、親に勉強しろって言われてる同級生が羨ましくて、一回オカンに「なんで『勉強しろ!』って言ってくれないんだ!」って責めたら、「ちょっと待ってくれ」と、「あんたオカンオカン言ってるけど、勝手に生まれてきて、いつのまにかまわりのみんなにもオカン扱いされて。わたしはオカンになりたくてオカンになったわけじゃない!」って言われて…。

 

加藤 すげえ(笑)

 

平松 「わたしはあんたが考えてることは小さいころからすごいって思ってるし、いまのあんたはおかあさんより頭がいい。そんなひとに勉強しろなんてって言えるか? 言えんだろうって。わたしはそんな人間じゃない。」って。そう言われたら、スッとして。じゃあ俺、このまま親父とオカンが面白いって思えるように頑張ろうって思うようになって。ひとには出来ないことをやろうって。じゃあ東大かなって(笑)

 

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加藤 で、最近は何やってるの? 肩書きというか。

 

平松 いまは『ネット通販コンサルタント』ですね。

 

加藤 マクドナルド下北沢店からの転職(笑)

 

平松 店長になる手前で転職するという…。でもまぁ別に仕事はなんでもいいと思ってるんですよ。最終的には友達と一緒になんかやりたいんすよね。だから、いざ、みんなで何かやる時のために、チームをまとめる力がついたらいいなって。最初はマクドナルドに就職して。マクドナルドって店に100人いたんすよ。

 

加藤 え、あの店だけで?

 

平松 やばいでしょ。

 

加藤 100人まとめるってどうやるの?

 

平松 言葉ですね。世代も性別も違う100人を導くってすごく大変だから、どういう言葉を投げかければみんなが『楽しめる』だろうかって。詐欺師みたいな話ですけど(笑) みんなそこで働くからにはポジティブな理由もネガティブな理由もいろいろあるから、その理由を聞いて、話してみて、それに対してどんな言葉をかければ『楽しめる』か。数字だけ見てもイヤじゃないですか、すごいドライになるし、楽しくない。仕事が楽しくないと生活の半分以上が楽しくなくなるわけで。せっかく働くなら楽しい方がいいじゃないですか。

 

加藤 ちゃんと話を聞いて、返すんだ。えらいね。

 

平松 というより自分はラクしたいんすよ。ラクじゃないとつまらないじゃないですか。自分に余裕があってはじめて一緒に友達と頑張れたり、頑張ってるひとを応援できるわけだし。それでプライベートも充実する。上司が忙しそうな職場ってすげー最悪でしょう。でも、仕事が楽しくなると、みんな自分から率先して仕事してくれるようになるんですよ。言わなくてもやってくれるようになる。売り上げもドンドンあがってくし。あと、マクドナルドのいいところって、お互いをとにかく『褒める』ところなんですよ。思ってもいないのに褒めるのはイヤだけれど、でも、褒められるとうれしいじゃないですか。褒められる=認められるだから、そこに自然な会話が生まれる。話を聞いてくれるし、悩んだら相談してくれるようになる。だから理由はどうであれ。とにかくいいところを見つけて褒める。だから、褒めるのって大事だって思って、自然と褒めることができるようになったら、いろいろラクになりましたね。

 

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加藤 そういうのって東大で教わるの?

 

平松 いや、東大でっていうより、東大で自分が主催した『*KOMAMO』ってフェスですね。

 

* KOMAMO…東京大学での学祭時に、構内で開催される東大生によるフリーの野外音楽フェス。2005年〜現在まで、国内外・ジャンル問わずさまざまなアーティスト・バンド・DJが出演して話題に。

 

特に音楽がめちゃくちゃ好きなわけでもない東大生20人くらいがフェスを作りたいって理由で、有志で集まってくれて、スピーカーもステージも全部自分たちでイントレ(鉄組み)を都内のいろんなところから借りてきて、自分たちで建てて、自分たちでアーティスト呼んで。普通、学生からしたらそんなのイヤじゃないですか、なんのメリットもないし。自分は音楽が好きだったからいいけれど、でも、参加してくれた20人がめっちゃ楽しんでくれて、今(2013年)でも下の世代までずっと続いてる。それがすごいうれしくて…。それはマクドナルドでも一緒で、ハンバーガーを売るのが目的のひとじゃなくても、働き方次第で楽しめるし、結果的にハンバーガーをたくさん売ることができるし、続く。でも、3年くらいでだんだん自分のやることはなくなってきますよ(笑) KOMAMOもマクドナルドも、みんなが率先して動けば、自分がいなくてもみんな来てくれるし、売れるようになる。バイトの離職率も低くなったし。そうなってくると、「これじゃあ自分がダメになるな」と。何かが足らないからこそ知恵しぼって成長して行くじゃないですか。だから、苦労は若いうちにしとけじゃあないけど、100人よりも『もっと』って思って、転職しましたね。

 

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加藤 そもそもなぜ東大でフェスを?

 

平松 東京に来てはじめて野外でテクノを聞いて…。高校生の時もクラブとかで聞いたことはあったけれど、真夜中って眠いし、あんまりよくわかってなくて。でも野外で聞いてはじめて「これはカッコイイ…」と。で、すぐにターンテーブル買って練習して。で、どうせなら好きなアーティスト呼んで自分たちでやってみよう!みたいな感じで。そんなん楽しいでしょ。東大でそんなことしてるひとたちいなかったし。もっと自由な空気が作れたらいいなって思って。当時、自分もそうでしたけど、東大生って頭かたいなって偏見があって、自分が野外フェスで聞いたテクノがきっかけで考え方とか感じ方が変わったように、学生同志でそういう経験を共有できたらいいなと。そこから外部のヒトも巻き込んで、もう10年続いてますからね。良かったなと。先輩ヅラしたくないから卒業してからは一回も遊びに行ってないですけど(笑)

 

加藤 10年前に平松っていう伝説の東大生がいた的な。

 

平松 KOMAMOを通じて、自分以外のひとたちに楽しく活動してもらうっていう良さがわかったんだと思います。だから単純にフェスの会場がマクドナルドになったようなもんですね。毎日がフリーパーティ。フリースマイル。

 

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加藤 今後は?

 

平松 徳島が盛り上がることをやりたいですね。徳島のひとって1年365日のうちの4日間の『阿波踊り』以外、楽しみがないってひとが多くて。だから阿波踊り終わったあとの徳島のひとたちのテンションの落ち具合やばいっすよ。「また魔の361日がはじまる…」って。絶望ですよね。あとはショッピングモールいったり、お茶したり映画を見たり。みんなおんなじような週末の過ごし方してるんですよね。

 

加藤 仮出所みたいな(笑)

 

平松 そう。しかもバイパス沿いのロードサイド店舗が基本なんで、全部チェーン店。それって哀しいじゃないですか。つまんないじゃないですか。だから、阿波踊り以外のコンテンツが作りたいんですよね、遊び場というか。自分のやったことで、徳島にお金が入るのであればそれでもいいなあと。『地元』のものを売る。伝統工芸でも、漬け物でもスイーツでもいいんですよね。ブランディングして、パッケージングしてターゲットに届ける。という仕事をやってみたい。だからいまはネット通販のコンサルの仕事を。ネット通販って国内はもちろん世界に届くし、それが地元や友達の役にたてばなと。そうやってみんな楽しく働ける方がみんないいと思うし、それが実現できればと思ってますね。1個1個、カタチになってくといいですね。

 

加藤 農家みたいな考え方だね(笑)

 

平松 農業も興味ありますしね。東大、フェス、DJ、オシャレ、みたいなのはイヤじゃないですか、もっと人間っぽくいたいというか。いつでもストイックに『狂える』っていう根拠が、ダイエットと受験で経験してますからね、いざとなったらそこで勝負できるし、東京で視野が広がったし、いまはすごくニュートラルですよ。楽しんでます。ていうか、これは何のためのインタビューなんすか(笑)

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