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24歳の時、何してたかな。下北沢にあるカウンターだけのしなびたバーで、毎晩のように酒を浴びるように飲んで、時々となりに座ったおじさんと音楽について口論したり、女の子のことばかり追いかけて、仕事はしていたかな? 社会人の経験なんてなかった気がする。ニートなんて言葉が出て来て、「ニート」っていう甘美な響きにどっぷり浸りながらも、同時に猛烈に不安になったりしていた。消費税と酒税とたばこ税くらいしか収めてなかった気がする。親からお金借りて、それでもたいして良い服なんて来てなかったし、おいしいものも食べてなかったから、とにかくお酒にお金を使っていたと思う。あ、それはいまと一緒か。
つまり「社会」なんていうものは自分で描くものだと思っていて、まだ本気を出していないだけで、すぐにどうにかなると思っていた。時間の問題だってずっと思っていた。けど大きく違った。つまづいて、手のひらのちょっとの擦りキズから流れる血液にビビって、慌てて起きあがったら急に目の前に「社会」はあった。
社会はそんなに悪くない。今はそう思っていて、彼女みたいにもっと早く気づいていれば、もっと仕事も、生活も、社会も、もっと楽しめたかもしれない。
PHOTO&TEXT:JUNYA KATO(PARK INC.)
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加藤 みんな最初に肩書きを聞いているんだけど、百子さんの場合はなんだろう。
百子 説明が面倒くさくてフリーターって言ってる(笑) でもちゃんと自己紹介しないといけない時は、羊毛フェルトの先生をやってますってちゃんと言うんですけど、でも、それだけじゃないんですよね。やってることが。お店番したり、イベントの手伝いやったり、料理つくる時もあるし、とにかくいろんなことやってる。
加藤 一週間の流れってどんな感じなの?
百子 水曜日はPARK(江戸川区平井にできたショップ&ギャラリー)のスタッフとして店番。土日と木曜は羊毛フェルトの先生。金曜は渋谷の『タマリバ』っていうシェアスペースの受付。月曜日はだいたい休みか出張講座。で、私『日本羊毛フェルトクラフト協会』っていうところから認定を受けて活動してるんですけど、そこの内部打ち合わせみたいなのや制作活動を火曜日にしてます。あ、あとたまに家の近所の居酒屋のお手伝いしたり。
加藤 自由に働いてるなあ。
百子 まぁいろんなことをやってる羊毛フェルトの先生ですね。
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加藤 羊毛フェルトの講座ってどこか場所があるの?
百子 ありますよ。表参道と銀座と代官山に教室があって、そこの表参道担当ですね。
加藤 そんなリッチな街に3軒もあるの! ってことはそれだけ羊毛フェルトを習いたいっていうニーズがあるってことだよね。
百子 そう。
加藤 わー全然知らない世界(笑) 羊の毛を使って何を作るの?
百子 いろいろですね。アクセサリーとか人形を作ったり。わりとアイデア次第で何でも作れますよ。作り方は2種類あって、立体物を作ったりするときは、羊毛を特殊な針で絡ませていって固めていってどんどん大きくする感じで、もう1つ固め方があるんですけど、石鹸水をつけて固めていく方法。それはフェルトで布を作る時のやりかたで、その布で鞄とかスリッパを作ったり。縫い目をつけないで袋状にできるから、かわいいし、おもしろいんですよね。
加藤 それを教えれられる先生って何人くらいいるの?
百子 協会に認定されてて、かつ先生として稼働してる先生は10人いるかいないかくらい。インストラクターとして認定されてるひとだけで言うと結構いますね。50人とかかな。仕事しながらたまに講座を開いて教えてるひととかもいると思います。
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加藤 そもそも先生になろうって思ったきっかけは?
百子 紆余曲折あって…まぁざっくり言うと、先生になる前に、世田谷のコミュニティカフェみたいなところで働いてて。街の人たちの集会や、障がい福祉関係のひとたちの集まりがあったりするような場所なんですけど、世田谷ってわりと地域のビジネスを応援しようっていう流れがあって、その流れで世田谷ソーシャルビジネスコンテストっていうのにそのお店が出展したんですよね。そこに羊毛フェルト協会のひとたちも出展してて。例えば羊毛フェルトで障がい者の雇用を生むっていうプログラムをやってたり、横で見てて楽しそうだなって思ってはじめたのがきっかけですね。もともと世の中の役に立つような仕事をしたいっていう気持ちがありつつ、でも自分も楽しくなきゃ意味ないなって思ってて、で、こどもと遊びながらできる仕事をしたいなとか、考えてたんで、羊毛フェルトならこどもからお年寄りまで一緒に楽しめるなって。あとは単純に羊毛の色がキレイとか、作るって楽しいとか。最初は先生になろうなんて思ってなかったんですけどね。でもその協会の代表がすごく良くしてくれて、そろそろ仕事を変えようかなって思ってた時に「インストラクターにならない?」ってお誘いいただいて。それで。そこから本格的に勉強して、いまに至るっていう感じですね。2年くらいかな。
加藤 でも、ひとに教えるのって大変そうだね。
百子 ですね。先生って言っても私の方が年下のことの方が多くて。なおさら。
加藤 24歳だっけ? 年下のくせに生意気な! みたいな?(笑)
百子 そうですね。だからミスしたりもするんですけど、みんな優しいんで、あたたかく見守ってくれますね。
加藤 羊毛フェルトやってるひとに悪い人いなそうだもんね。
百子 うん。いない。
加藤 でもさ、若いのにっていうのも変かもしれないけれど、その歳で「ひとの役に立ちたい」って思えるのって偉いね。
百子 仕事ってどんな仕事でもひとの役に立ちません?
加藤 まぁ…ね。大義名分はね。
百子 きれいごとかもしれないけれど、そうあってほしいなって。
加藤 うん。
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百子 私、小さい頃に親が離婚したりしていて、貧乏だったりもして、まぁまぁ苦労してきたんですけど、ある日、小学校の時、テレビのドキュメンタリー番組で、発展途上国のこどもたちの話かなんかやってて、それ見てたら「わたし、クヨクヨしてたらダメだな」って、思ったんですよね。
加藤 小学生で(笑)
百子 そう。もっとヤバいこといっぱいあるんだなって。でもこどもだったし、どうしたらそういう問題が解決するのかってところまではわからなくて。とはいえ、なんとなく学生の時はボランティア活動って言われてることをしつつ。で、就職活動ってなった時に、私、面接で思ってもいないこと言ってまで就職したくないなって思って。というかそういう仕事が合ってない気がして。もっと正直に自分が思ってること表現して雇ってもらえるところがあったらそこがいいなって。だと、普通の就活じゃあダメだなって思って、イベントに積極的に顔出したり、会いたいなって思ったひとに会いに行ったりしてたら、たまたまその世田谷のお店のひとと出会って。話を聞いてたら、途上国のことも障がい者の問題も抱えてる問題は一緒だったりして、そういうお店のお手伝いなら良いなって。
加藤 そこは具体的にはどういうお店?
百子 障がい者のひとが作った製品を販売したり、食材を提供したり。福祉関係のひとたちが打ち合わせしたり、イベントをしたりするようなお店ですね。
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加藤 いいね。20歳くらいの頃ってことだよね? ぼくなんてバーテンやって酒ばっか飲んでた。
百子 バーテンもひとのためになる立派な仕事だと思うんですよね。例えば「ねじ」を作る仕事だって、世のためひとのためになってると思う。でも、誰が使うどこの部品になるかわからない、出口がわからないで仕事をするのは辛いですよね。だから、誰かのためになってるっていうアウトプット先を知ってれば、働いてても楽しいし。続けられるかなと。
加藤 そのお店はそれが目の前だもんね。
百子 そう。いろんな街関係のひとたちが利用してくれていたんで、いろんな切り口から問題が見えて、例えば障がい者、こども、高齢者、住宅問題、都市開発。いろんな問題があって、いろんなボランティア活動や事業があったけれど、1つ共通して言えるのは、絶対に価値をゼロにしてはいけない。活動するからには対価は生まないといけないんだなって。障がい者の職業訓練でも、がんばって働いて、月700円じゃあしんどい。でもちゃんと雇用を見いだしてるところは月に10万円とか払えてる。そうやって目に見えて実感が湧くと、みんな頑張れる。売り上げがあがらないとしても、せめてひとの役にたってるって思わないと、思ってもらわないと、次のステップにもつながらないし、しんどい(笑)
加藤 そういう仕事の考え方、ぼくが最近まで気づけなかったなあ。
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百子 PARK SHOP&GALLERYもそうだけど、ひとのためになる仕事を、ひとの紹介でいろいろやらせてもらって、生きてるっていう感じ。ひとの縁で生きてる。貧乏ですけどね。でも、大きなお金がほしいとは思わないし、いままでお金で至極困ったことはなくて、占いできる友達に聞いたら、金運には恵まれてるみたい(笑)
加藤 金運(笑) ひととの縁がね、価値だもんね。縁がつながっていくような仕事しかしたくないよね。お金はいらないんだけどね、次につながらないとやっていけないよね。
百子 そうだね。求められたい。いろんなボランティアに行ったけど、でも求められるって難しい。いてくれたら助かるな程度では求められてるって言えなくて、それって単に手数が足らないだけだったりして、私の能力じゃあないし。最近は、求められるとは何かっていう議論をしてる。
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加藤 そういう議論は好きだな。求められてるか求められてないかね。ぼくもせっかく働くなら求められたい。けど、便利だからとか、人手が足らないからとかって理由で、でも対価に合わない仕事を受けることもあって、それはそれで嫌いじゃない。穴埋めかもしれない仕事に対して「求められてる」って錯覚するのも悪くないって思っちゃう。ぼくは。PARKもそうだよね。もしかしたら福祉×街×カルチャーなんて誰も求めてないのかもしれないけれど、超求められてるっていう錯覚をさらに錯覚して謎のがんばりを見せてる。
百子 それはそれで偉いよ。こうしてお店としてカタチにしてるし。
加藤 10個下の子から上から目線(笑)でもそうだね。こうして手伝ってくれるみんなもいて。
百子 生意気ですね…すみません。でも年齢はね、あまり関係ないですよね。遅かれ早かれ、ひとの成長って決まってると思うし。だからこの先なにをするか、だよね。
加藤 生意気〜(笑) 百子さん的にこの先はどうしていきたいとかあるの?
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百子 うーん…。すごく長期プランと、すぐ先のプランは見えてるんだけど、そのあいだのプランがまったく見えてない。いきあたりばったりすぎて(笑) でもやりたいことはたくさんあって、文章書く仕事もやってみたいし、キュレーターもやりたい。CMつくるひとにもなりたい。保育園の先生もやってみたい。
加藤 自由だな〜(笑)まぁでも24歳のぼくが思ってもいなかったことをいまこうして仕事にしてるし、それでなんとかやれてるし、これからどうなっていくかは、わからないか…。
百子 可能性はなくもないって思っていて、幸いいろんな仕事先でいろんな出会いがあるから。手伝うこといっぱいあるし。私の能力を活かしてもらいつつ、勉強させてもらうみたいなことをさせてもらってる。その私に価値を見いだしてくれるひとがいたら、いつか何かのプロジェクトに呼んでくれたりしそうだし。
加藤 もし百子さんに手伝ってほしい時に百子さんが別の手伝いで忙しかったら、もっとお金を払うからこっちのプロジェクトに来てってぼくなら思うし、その積み重ねでまわりの方から変わっていくよね。そんな時、やっぱりいろんなところにアンテナが立ってて、いろんなことができる方が良いし、そうなってくといいよね。
百子 それかっこいい〜。それならずっとフリーターでもいいかもな(笑)
加藤 プロのフリーターかぁ。すごくいいね。
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佐藤百子(さとうももこ)
1990年11月05日 さそり座
羊毛フェルト講師 / 作家
日本羊毛フェルトクラフト協会
http://felt-lesson.com/
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