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先日、よく晴れた日、東名高速をドライブしていて、静岡にさしかかったあたりか、神奈川を抜けるあたりだと思うんだけれど、右側に突如、ドンと富士山が現れるんですよね。新幹線でもそうかな。遠くに小さく見える富士が少しずつ大きくなっていくというわけではなく、いきなりぼくらの視界にカットインしてくる。ぼくは特に富士山に思い入れはないはずなんだけれど、その圧倒的な大きさ、迫力、存在感に、自然と、本能的に、神々しさを感じざるをえないわけです。

 

「富士」と書いて「たかし」と読みます。

 

と自己紹介された時、からだの大きな彼の不思議な存在感に対して、妙に納得を得たのを覚えている。

 

彼と知り合うきっかけとなったイベントの、そのあと片付けのときも、人一倍はたらいてくれて、ありがとう、と投げかけると、つい体が反応してしまって、と笑いながら答えてくれる。さらに話を聞いていると、心に病を抱えているひとたちの自立を支援するサポートセンターで整体師として講師をしているという。


そんな富士くんの話をもっと聞きたくなって、施設のある江戸川区へ、彼に会いに行ってきました。

 

PHOTO&TEXT:JUNYA KATO(PARK INC.)

 

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松戸 ぼく…なに話せばいいですかね?

 

加藤 今までの人生。

 

松戸 いきなりスケールでかいですね!(笑)

 

加藤 まぁ無理せず自然にで良いよ(笑) ふだん仕事はなにしてるの?

 

松戸 整体師ですね。

 

加藤 珍しいよね。ぼくもときどき整骨院に通っているんだけど、整骨院の施術師とは違うの?

 

松戸 はい。やることはあまり変わらないんですけれど、整骨院は国家資格で、僕の場合は民間療法なので国家資格はいらないです。ただ、自由度は高いんですが、医学的な制限は多いです。例えば「民間療法」の場合は「治る」っていう言葉は使ってはいけないんですよね。「腰が悪い」と言われても、「治ります」って言えない。

 

加藤 でも治る時もあるんだよね?

 

松戸 ですね。でも、その症状に応じた最適な改善提案をするけれど「治す」わけではないんです。

 

加藤 そうなんだぁ。絶妙な違いだね(笑)

 

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松戸 わかりやすく言えば、マッサージやヨガのようなストレッチと一緒ですね。あれも患部を治すわけではなく、あくまでここをこうしたら良くなるのではないか? という提案ですからね。

 

加藤 整体と整骨院。以外と知らない世界だなぁ。お店はどうしてるの?

 

松戸 自営です。自宅兼で。保険が適用できる整骨院にくらべれば高いですが、1時間5000円で、30分延長ごとに2000円。そのぶん時間も長いですが。

 

加藤 確かにぼくが行ってる整骨院なんかは保険適用で安いけど、15分くらいしか看てくれないから、腰だけのために何日かに分けて通わなくてはいけなくて、結局、そうなってくると料金もおなじくらいにはなるよね。

 

松戸 ぼくの場合は、マッサージみたいに筋肉を少しずつぼぐして、全体の血液の循環をよくしたりすることが目的だったりするので、ゆっくり時間をかけてやってあげたいという感じですね。

 

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加藤 そもそもなんで整体師になろうと思ったの?

 

松戸 19歳くらいの時には整体師として仕事をはじめていたんですけれども、興味を持ったのは14歳くらいの時ですね。

 

加藤 14歳! 若いね! きっかけは?

 

松戸 僕自身が病気をしてしまって…病気自体は特に問題はなかったんですけれど、そのせいで薬漬けに…。1日に24錠の錠剤を服用しなくてはいけなくて、いつも副作用でフラフラで、ニキビもいっぱい出るし…。当時、中学生だったから、そのせいで女子に嫌われたり…。なんで薬ごときで体も気持ちもボロボロにされないといけないのかなって思うようになったんですよね。で、ある日、薬をやめて。そうしたら、どんどん症状がよくなっていったんですよね。副作用ももちろんなくなって。

 

加藤 自然治癒だ。

 

松戸 そうですね。薬を使わなくても体は良くできるんだって。自分の体だったってこともあって、徐々に興味を持ち始めたんですよね。で、柔道整復師(骨折・脱臼・打撲・捻挫の治療を行うことができる資格)の国家資格を取るのも良いかなって思っていたんですけど、当時は資格のために勉強するっていうイメージがなくて、自分で気軽に、資格がなくてもできること、っていうのをいろいろ調べていたいたら、整体師だったんですよね。それで、基礎を勉強するために専門学校に行って。でも、整体って、1つの正解があるわけではなくて、自分で調べて、ひたすら実践して行く感じなんですよね。ひとによって効き方も違うので、正解を学ぶというより、実践でどういう効果があるかを少しずつ体験して知って行くという感じです。

 

加藤 そのデータを記憶して応用していくんだ。

 

松戸 まさに。で、1年間、学校で学んで、1年間、実践でやってみて、で、地元(葛西)で整体をやっている知り合いがいたので、そこに弟子入りというかたちで入れてもらって、バイトで生計を立てながら、ずっと勉強をしていた感じです。そこの先生が師匠という感じですね。

 

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加藤 整体の勉強は難しかった?

 

松戸 先生のおかげもあったんですけれど、難しいっていう感じではなかったですね。感覚が左右するんで、毎回発見があって日々勉強という感じですし、もちろん、ひとりひとりに合った施術を、という観点からすると難しいんですが。

 

加藤 ぼくもさ、デスクワークが多いから、体は常に悪くてさ、よく整骨院に行くんだけど、そこは保険が効いて安いし、気持ちが良いから行くんだけど。でも、前にさ、保険が効かないところに行ってみたの。やっぱ腰が痛くて(笑)

そしたらさ、そこの先生が、腰じゃなくてまず全身を少しずつ触って、腰じゃなくて首をさすり出したんだよね。「ここ痛いんじゃない?」って。確かに、そこ、小さい頃からずっと痛くて。でも、そんなに気にしてなかったんだよね。それがさ、触られると痛いし、さすられると気持ちがいい。で、今度はくるぶしあたりをさすり始めるんですよ。詳しい箇所は忘れたけれど、そしたらなぜかどんどん首が良くなってくんですよね。それがすごい不思議で。

 

松戸 わかります。よくやる方法ですね。首って、手首も足首もつながってるから、その先生は、首が痛くなる原因が足くびにあるって判断したんじゃないかなっていま話を聞いてて思いました。あと、腰が悪いひとに対して、いきなり治療目的で腰を触りすぎると、かえってストレスになったりするから、腰以外の、自覚はしていないけれど悪いところを触ってみて、徐々に全身の緊張をほぐしてから本当に悪いところをさりげなく触って治療して行くという方法もあります。

 

加藤 深いね!

 

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松戸 痛いところだけ重点的にやっても、その時は良いかもしれないけれど、しばらくたってみたら、また痛むっていうことはありますね。なので、その原因を追求するために、ゆっくり時間をかけて全身を看てあげるっていうのが良いのかなって思います。

 

加藤 なるほど! だってさ、患部を触らずに徐々によくなっていったから魔法みたいだったもん!

 

松戸 それは加藤さんの方の気持ちもフィットしたのかもしれないですね。緊張している状態より、ある程度、体をゆだねてもらった方が効果はあると思います。心と体は1つなのでリラックスしてもらうのはすごく大事です。というのも、ぼくの師匠が教えてくれたんですが、やっぱり心と体はつながってるんですよね。ひとくちに「緊張している」「していない」と言っても、言葉よりも、体の方が正直で、やっぱり言葉で「大丈夫」と言っていても体は硬いんですよ。それは触ればわかる。逆に言えば、体が柔らかければ、緊張がほぐれて、逆に今度は言葉がすっと入ってくるようになるんですよね。そのうえで心理的にも肉体的にもカウンセリングをしてあげる。つまり人間は心と体で常にバランスを取ってるんですよね。だから、整体=ほぐすというより、僕の場合は体を通じてすべてのバランスを整えてあげるという感じです。

 

加藤 わぁ…深い…。

 

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松戸 とはいえ、まだまだ歴史の浅い西洋医学の話なので、まだまだ解明されていないことも多いですし、今の医学でもわからないことが日に日に増えてるんですよね。例えばパソコンやスマホを使うようになって歪んできてる体はどうすると良いのか。親指ってもともと道具を使う時に添えるだけだったんですけれど、ここ最近で一気にフル活用しているんで、一番つかれてるんですよね。だと、どういうことが起こるかって言うと、親指につながってる腕から肩、そして背中への負担が増えてくるんですよね。だから肩がどんどん引っ張られて前に出て来てしまうんですよね。パソコンも一緒です。だと、指よりも肩を治療する方がいい。でも、否定は出来ないんですよね。

 

加藤 というと?

 

松戸 スマホもパソコンも現代には必要じゃないですか。

 

加藤 うん。そうだね。

 

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松戸 心と体の両方のことを考えると、その状況をいかに現実として受け入れて、ケアしてあげるかっていうことが必要で、それを提案するんです。体のことを知らないとケアが出来ない。

野球みたいにずっと肩を動かしていたら、肩が悪いんだってわかるし、肩を治療しようと思えるんですが、肩を使ってないのに自分は肩が疲れてるんだっていう風にはなかなか思えない。だから、あなたはこういう理由で肩が悪いんですって教えてあげるというのも1つの方法ですね。とにかくバランスなんですよね。骨と筋肉も。心も体も。だからどこが悪いとか、どこを触ればいいとかではなくて、全体のバランスが良くなるための施術をするようにしてます。

なので大事なのはコミュニケーションですね。ひとりひとり症状は違うし、ひとりひとり効果も違う。でも、整体に来るひとって自分の体がどうなるが良いのか、自分でイメージできるひとだから、そこに近づくためにどうしたら良いのか話しながら提案するという感じですね。

 

加藤 面白い! 確かにそうだね! 自分の中にイメージはあるけれど、わかっていないかも。

 

松戸 普段、お風呂につからないひとが、足の冷えやむくみで困っていたら、施術よりも、お風呂に入ることを進めますし(笑)

 

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加藤 最近、整体師としてはじめた江戸川区の(心に病を抱えているひとたちのための)自立支援施設での講師も、そういうのから派生してるのかな? バランスをみてあげるというか。

 

松戸 そうですね。いま講師をさせてもらっている施設もそうですけれど、気持ちの面で弱ってるひと、ふさぎ込んでいるひとに対して、「もしかしたら心ではなくて体のバランスが悪いのかもしれない」っていう可能性を指摘することで、自分の体の歪みに気づいてもらって、少しでも気持ちがよくなってもらえれば良いなって。心のケアももちろん大事ですけれど、その前に自分の体をケアしてあげることで、少しずつよくなるってこともあるんじゃないかなって。

 

加藤 なるほど。すごく理にかなってる気がするなあ。ぼくも運動不足じゃあ、仕事でなかなかいいアイデアが出なかったりするもんなあ。

 

松戸 どこかが悪いと、総崩れになっていきますからね。どちらかを良くしてもダメですし。コミュニケーションを通じて自分の体の良い部分、悪い部分に気づいて、バランスを整えるが大事ですね。

 

加藤 うわぁ…なんか、それってすべてに通じてる気がするなぁ。

 

松戸 そうなんですよ! 体だけを整えるんじゃなくて、ひとりの人間として向き合って、心と体がどういう風になっていくのがベストなのかか、というのを患者さんと一緒に考えて行くことも整体師のしごとなんだなぁって思っています。だから今後は、自分のお店に来るお客さんだけじゃなく、さっきも話したような福祉のしごともどんどんしていきたいですね。自分の整体の知識と技術で、ひとりでも多くのひとを体だけじゃなく、心から救ってあげるようなことができたら良いなって思っています。

 

加藤 それは本当に素晴らしいと思います! ぼくも松戸くんに心のマッサージしてほしい(笑)

 

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