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インタビューのあと、もう一軒行くくらいなら「うちで飲みませんか?」という無邪気な誘いに乗って、彼の家で彼の友人のディレクションによる15分とかそのくらいの長さのショートムービーだったと思う。見せつけられた。美しいけれど、(だから)はかなく、監督の意図はわからないけれど、よくもわるくも新しさはなかったと思う。懐かしい。慣れ親しんだ故郷から新しい土地へ離れる、そのあいだの移動の、最中の景色が、過去の思い出として描かれてるようで。愛しい。
泣いたり、笑ったりするような作品ではなかったけれど、何度も見た。まんまと見せられた? もしくはぼくがもうすでに何度も見たくなっていた? のかもしれないけれどわからない。そして帰り道、電車に乗りながら、ずっとずっと頭の中でその映像が再生されてた。ウォンカーウァイの映画を見たあと、あの妙な広東語がカラダに染み付いてしまってるかのような感じ。
これ、ぼくの友人の作品です。いいでしょ。
と、澱みのない100%の笑みで言える彼を心から尊敬した瞬間でもある。で、こいつ、誰だっけ? という疑念も寄せながら、いつの間にかのニュートラル。
HAIR STYLING:KIYOHISA HOSOI(YOKe)
PHOTO&TEXT:JUNYA KATO(PARK INC.)
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加藤 鶴谷くんっていったい何者なんだ、ってみんな思ってるよね。ぼくも、いまだ思ってるけど。
鶴谷 ぼくもあまりはっきりとはわかってないですよ(笑) 自分でデザインした名刺があるんですけど、肩書きは書いていなくて。
加藤 わかる。ぼくも肩書きはつけれなかった。肩書きって本当は難しいよね。
鶴谷 で、たまたま職場が一緒のなかおみちおさん(NEUTRAL#001参照)にPARK MAGAZINEっていうのがあるよって教えてもらって、読んでみたら、自分がやりたいって思ってることに近かったんですよね。まわりのともだち巻き込んでじわじわと前に進んでく感じ。もうすでにカタチにしようとしてるひとがいると思って。どういうひとなんだろうと。
加藤 じわじわね。良く言われる(笑)
鶴谷 しかもただまわりの友達を紹介するだけじゃなくて、1人1人ちゃんとコンテンツ化してるから、すごいなと思って。それで会ってみたいなと思って連絡させてもらったんですよね。あ、話は変わるんですけれど、これ、友達が作ったジンなんですけど、加藤さんに見てもらいたいなって思って、持ってきました。
加藤 おおお。いいね。おすね(笑)
鶴谷 友達のCDもあるんで、これも良かったら聞いてみてください。
加藤 あ、あ、ありがとう(笑)
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鶴谷 なんでしょうね。こうやって自分と自分のまわりのひとたちと少しずつ躍り出ていくというか、そういうことをやりたいんですけど、でもどちらかというと自分は裏方というか、こうして誰かが作ったものを誰かに渡したりとか、イベントを友達に紹介したりとか。もちろんそのためにショップカードやイベントのチラシをデザインしたりする時もあるんですけど、別にデザインがやりたいわけじゃないんだなって。ぼくの中ではあくまでデザインは誰かとつながるためのきっかけかなと。つまり「ひとと会うきっかけを作りたい」。
加藤 仲介業(笑)名刺には書けないよね。
鶴谷 ひととひとが会うきっかけになるのであれば、デザインもやりたいし、WEBも知識ゼロですけど、やってみたいし、友達のバンドを応援したり。動画の編集もしますし。その中でもデザインは目で見てすぐにわかるし、キャッチーだなって感じもあるし、もともと絵を書いたりしてたんで、比較的やってますけど。
加藤 はじめましてのメールで自作の短編小説を送りつけてきたよね。あれはさすがにちょっとびっくりしたよ。
鶴谷 そうですね(笑)まぁとにかくなんでもいいんですよね。「この指とまれ!」って感じですね。でも集まったら外側から支えるみたいな。ちょっとずつですけどね、できたらいいなと。だから肩書きはわからないですね。都合のいい肩書きが見つからない。
加藤 ツルガーじゃない。
鶴谷 ツルガー(笑)
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加藤 確かにひととひとをつないでお金をもらえる職業ってのはあまり聞いたことないもんな。
鶴谷 まぁようするに『おせっかいおばさん』って感じですよね。お金がほしいわけじゃなくて、単純に楽しいからやってるわけであって。仕事しながらもできることだし。趣味ではじめたジョギングとか読書とかって、就職したからってやめないじゃないですか。趣味が仕事になったらいいなぁとは思いますけど、やめる必要はないなって。いまは自分的にはバランスがちょうどいいですね。バイトして、趣味もあって、時々、そのつながりでデザインさせてもらったり、それでお給料もらったり。兼業農家みたいな感覚ですかね。
加藤 そもそも何かなりたいものとかあったの?
鶴谷 特になかったですかね。小中高は普通に出て、でも大学に行かなかったんで。なので、就職するかしないかっていう2択しかなかったですね。あと、うち、家がクソ貧乏で。マジかよっていうくらい。
加藤 クソ貧乏(笑)
鶴谷 大人になってくとだんだん気づくんですよね。「あ、うち貧乏だ」って。みんなと違うって。うちのストーブだけぜんぜん風が出てこないとか、引っ越しの時にみんな業者に頼んでるのにうちだけリアカーだったり。スイカの皮は捨てずに叩いて割って浅漬けにしてましたし。その辺のたんぽぽのはっぱでおひたし作ってたり。
加藤 西荻窪だっけ?
鶴谷 富士見ヶ丘と久我山のあいだくらいでしたね。借家で家も耐久性に問題ありで。今おもえば超貧乏ですよね。それに高校卒業してすぐに親父が倒れて寝たきりになっちゃって。今年の6月に死んじゃったんすけど。それで生活が立ち行かなくなっちゃって。兄貴もぼくも、ふらふらしてる場合じゃなくて、とりあえず就職しようって。それで時計屋に。
加藤 そっかそっか言ってたね。下北沢の時計屋。
鶴谷 そうですね。時計って1つ1つの単価が高いんで、営業して売れると、インセンティブもらえたんですよ。それがよかったですね。こんな感じで、へらへらした性格なんで、お金持ちのひととかなんか気に入ってくれるんですよ。かわいがってくれるというか。ひとと話をするのが好きだったんで、それもあるかもしれないですけれど。
加藤 たしかに、時計買いに行って、バシッとスーツで決めたキザなヤツから時計買うくらいなら、鶴谷くんとへらへらおしゃべりしながら買いたいかも。
鶴谷 ありがとうございます。それにぼく、似合わないひとには似合わないって言ってたんですよね。それがよかったのかも。「買ってくれるのは嬉しいんですけど、似合ってないですよ。」って。で、こっちの方が似合ってるって紹介すると、そっちを買ってくれたりするんですよね。もちろん時計の勉強もめちゃくちゃして、で、10代だったってこともあって、それがウケたみたいで、固定のお客さんが何人かついたりして。その仕事で借金は完済できて。
加藤 10代で時計売って、貧乏から脱却って、外国の映画みたいなエピソードだね(笑)
鶴谷 で、そもそもお金の問題を解決したいっていう理由で就職しただけだったんで、その問題が解決した時に「さて、何がしたかったのかな?」と。立ち止まって、振り返ってみた時に、そういえば自由帳にたくさん絵を描いてて、まわりにいた全然しゃべったことなかったやつがそれを見て「おもしろいね」ってしゃべりかけてきたり。で、それがきっかけで自分と自分の友達とそいつが仲良くなりはじめたり。その時の楽しかった感触がずっと残ってたんですよね。だから、そういうことしたいなって。で、ともだちの制作を手伝ったり、いろんなイベントに顔出したり、そこでまたひととつながって。それって職業じゃないかもしれないけれど、利益にならないかもしれないけれど。もともとすごい貧乏だったから、それがお金にならなくてもぜんぜん苦じゃないんですよね(笑)
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加藤 なるほど!
鶴谷 たまに「マジ金がねえ」とか言ってるヤツとか見てると、それって実家の生活が水準になってるだけだから、俺からすれば屁でもないですよね。家あるんでしょ? ごはんと納豆あるんでしょ? って。弁当が白米だけだった時ある? 食パンと水だけで1日過ごしたことある? って。それが貧乏っていうんだよ!
加藤 確実に貧乏が鶴谷くんを強くしてるね。
鶴谷 ぼく、絵も描くんですけど、家に遊び道具が紙とえんぴつしかなかったんで、そりゃ絵も描きますよね(笑) デザインも独学ですし。僕から見ればみんな恵まれてる。だから自分の気持ちを差し置いてでも、友達をつなげたり、そういうことしたいんですよね。加藤さんに会わせたい友達、まだまた一杯いますもん。
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加藤 その原動力なんなんだろうねえ。
鶴谷 手先うごかしてたいんですよね。貧乏だったんで。
加藤 出た(笑)
鶴谷 ぼくこどもの時、ポケモンが流行ったんですよ。ポケモンって151匹いるんですよね。で、攻略本に載ってる151匹のポケモンをぜんぶ絵で描いたら、親がよろこぶかなって思った時があって、親が仕事から帰ってくるまでのあいだに、ぶわぁ〜て、ぜんぶ描いて親に見せたんですよね。そしたらすごく褒めてくれて。あ、しょうもない話っすよね。
加藤 いやいや、すげー良い話じゃん。
鶴谷 だから誰かのためにからだを動かして、喜んでもらうっていうのがとにかくすげー好きなんですよね。なんだろう。楽勝に楽しいというか。
加藤 素晴らしいな。
鶴谷 自分が10損した分、10取り返すっていう感じじゃなくて、10損した分、みんなが100になったらいいなっていう。俺が1時間多く働けば、みんなが2時間休める。限度はありますけどね(笑) 死ぬわけじゃあないし。
加藤 神か仏か。
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鶴谷 だれかが良くなるわけじゃなければやらないですけどね。その場合は少しでも楽な方がいいです。
加藤 不思議だなぁ。辛い時とかないの?
鶴谷 基本的にへらへらしてるんで。大丈夫です。
加藤 なんだろうなぁ(笑)
鶴谷 親父の影響が大きいですよ。さっきも言いましたけど、親父が倒れて、寝たきりになって、カラダも動かない、しゃべれない。かろうじて目であいうえおを追うことはできるけれど、それでも長くは会話は続かない。で、闘病の果てに…って感じの最後でしたけど。親父のこと大好きだったんで、最初の頃はとにかく泣いて、ワンワン泣いて。本当に辛かったですよ。でも、泣いてても泣かなくても変わらないことってあるじゃないですか。それより、泣いてたって進まないというか、俺が泣いて親父のカラダが良くなるんだったらいくらでも泣きますけど、そんなわけないじゃないですか。泣いててもへらへらしてても、変わらないなら、へらへらしてようって思ったんですよね。
加藤 そこは「へらへら」って表現でいいの?(笑)
鶴谷 そうですね。先生とかに「へらへらするな!」って言われてずっと育ってきたんで、なら「へらへら」してやろうって思いました。
加藤 あまのじゃく。
鶴谷 だから親父の葬式の時も、親戚とかみんな泣いてるんですけど、兄貴と一緒に、俺たちが泣いてても仕方ないんだから泣くのはやめようって。だからへらへらしてましたね。でも、そういうヤツっていた方がよくないっすか? だって一緒の現場でみんなで同じ仕事してる時にひとりだけ辛そうにしてるヤツとかイヤじゃないですか。ひとりだけ深いため息ついてるやつとか。そんなの何も変わらないじゃないですかね(笑) へらへらしてた方が、好転するというか、何かいいことあるかもしれないじゃないですか。その時、ちょっと辛いかもしれなくても、最後に楽しければいいんですよね。どうにもならなかったら、その時は自分がみんなよりがんばればいいんだから。
加藤 悟り開いてんなー(笑)
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鶴谷 昇輝 / NOBUTERU TSURUGAI
1989年 東京生まれ。
雰囲気のいい木の棒を拾いにさがさせたら右にでるものはいない。
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