|

-----------------------
親の仕事の都合で、転校することが多かったこともあって、中学も1年の頃くらいになると、もう友達を作ったって仕方がないって思うようになる。どうせまた別れがくる。なにより1から自分のことを説明するのがもう面倒で仕方ない。休み時間は遠い目をして、窓の外を見てる方がラクだったりする。運動もそこそこ、勉強もそこそこ。おおきな出来事なんてなくていいから、普通に、静かに、大人になって、好きな人を見つけて、ちゃんと、生きれたらそれでいいと思っていた。
その頃、教室には『普通』が満えいしていたように思う。田舎だったし子供だったっていうのもあるかもしれないけれど。ギリギリの『普通』で調和していた。いっけん普通じゃないヤツはいじめの対象になったし、いじめるヤツは、いじめられるヤツと背中合わせに見えた。そういうのを遠目でずっとみてた。
thai kick murph ウチヤマヒロト(Gt)
もちろん年齢も住んでいた場所も違うけれど、あの時あの教室に、もうひとり、普通の顔して、遠い目でそれを見てるヤツがいたような錯覚。どうやら、あいつは、ギターを弾けるらしい。
PHOTO&TEXT:JUNYA KATO(PARK INC.)
-----------------------
-----------------------
加藤 普段は仕事なにしてるの?
内山 公務員ですね。月曜から金曜までは区役所で働いて、土日のどちらかは練習なり打ち合わせなりで必ずメンバーと顔を合わせるようにしてます。
加藤 thai kick murphっていつからやってるんだっけ?
内山 大学生の頃なので、21歳とかですかね。今年28歳なので、7年。そう考えると長いですね(笑)
加藤 ギターはじめたきっかけは?
内山 中学2年生くらいの時なんですけど、ただ『モテたい』っていう理由で…普通ですよね…。
加藤 いやあ、一周して意外と少ないんじゃない?(笑) モテたいで始めるひとって。
内山 中学1年生の時にはじめて告白してフラれるっていうイベントがあって。
加藤 イベント(笑)
内山 その時にはじめて自分を俯瞰して見れて…。フラれるのもしょうがないというか、自分にはなんもないというか、「イケてないな」っていう…(笑) なんかはじめないと! って思ったんですよね。運動ができるわけでもないし、頭がいいわけでもなく。で、兄がギター持ってたんで、「ギター教えてよ」って。
加藤 バンドとかは?
内山 バンドとかはあまりイメージできなくて…「ギター弾けるんだぜ!」って言いたいだけでしたね(笑) それに、いじめられてたわけじゃあないんですけど、どう考えても自分自身がしょぼかったんですよね。クラスでも下というか弱(じゃく)というか。だから、バンドやろうぜ! みたいな感じはなく。でも弾くだけでは意味ないってのはわかってたから、「何かしないと」って思って、文化祭に出ようって。出なきゃって感じですね。でも一緒にやるひといないし、ひとりで出るしかないな…と。
-----------------------

-----------------------
加藤 ひとり(笑)
内山 でも『ゆず』のコピーバンドをしようとしてたので、もうひとりいないと! って思って、唯一信用できるともだちに横でタンバリンを叩いてもらうことにして、自分はギターボーカルを。いま思えば、そのともだちをダシに自分だけ目立ちたいっていうセコい考え方なんですけどね。
加藤 それは中学2年生?
内山 そうですね。ただ、文化祭でライブするのってだいたい中学3年生なんですよ。そこに中学2年生が出てきて、しかもどう見ても『弱者』のヤツが出てくるっていうのがセンセーショナルかなと。「え、あの内山?」みたいな(笑)誰にも言えなかったですからね。言う友達もいなかったんで。だから、文化祭のパンフレットが出来た時にみんな多分驚いてて。「一発やってやった」って感じで。そしたら文化祭のライブを見た同級生が一緒にバンドやろうって誘ってくれて、で、中3になってはじめてバンドをやることに。自分の中のではかなり大きかったですね。何かしら、やれば響くんだなと。自分の力で環境を変えられるんだって、思いましたね。で、そのまま高校で軽音楽部に。
加藤 高校は普通科?
内山 そうですね。THE・普通科ですね。偏差値50。ちょうどまんなか。悪くもないし良くもないし。目指すものもやりたいことも何もなかったっすね。普通に生きるっていうのが重要だったというか。普通に高校行って、普通に大学行って、普通に就職して、普通に結婚するのかな、と。自分がほかのひとよりも特別なにかできるって思っていなかったし。
-----------------------

-----------------------
加藤 じゃあそのまま大学行って、公務員って感じだ。
内山 いや、大学受験で一浪してますね。兄貴も一浪してたので、一浪までは普通かなと。大学に行くのが普通だと思ってたし。ほんと普通ですよね…。大学は文学部の心理学科で。心理カウンセラーになりたいなっていうのはちょっとだけあって。
加藤 なりたいものあんじゃん(笑)
内山 学生時代ずっとしょぼかったんで、弱いひとの味方っていうか、世間的にいじめとかも流行ってたし、そういうひとを助けられるひとになりたいなっていうのは根元にはありましたね。なれたらいいな、くらいの感じでしたけど。とはいえ、大学はずっとバンドサークルでバンドやってましたけど。
加藤 正統派青春バンド漫画みたいな人生だね(笑)
内山 たしかに(笑)
加藤 だいたいこの手のストーリーって、ちょっとした恋愛と「おれ、就職するから、バンド、やめるわ」みたいな話になりがちだけどね、7年続いてるんだね。
内山 いや、そこにも強い意志があるわけではなく、単純に…なんて言うんですかね…誰もやめないからやめるって言いづらいというか(笑) そしたらいつの間にかここまできたというか。
加藤 就職も難なく? 普通に?
内山 いや、ぜんぜんダメでしたね…。どこにも就職できなくて…。はじめは普通にみんなが知ってる大手がいいなと思って、メーカーを幅広く狙ってたんですよね…。でも、まず面接がぜんぜん受からなくて…。でも公務員は筆記試験があったんですよね、それなら自分でも大丈夫かなと。で、公務員に。
加藤 その経緯もふくめてすごく普通(笑)
-----------------------

-----------------------
内山 もうほんとに。テーマは『普通』ですよ。普通でありたいってずっと思い続けて来たんで。
加藤 ここまで普通だと逆に面白いけどね。
内山 でも、ぼくのパーソナリティの根元の部分の話になるんですけど、中学あがるくらいの時に母親を亡くしたんですよ。病気で。で、その時、小学校卒業してすぐながらも、普通に生きて行くんだろうなっていう人生設計みたいなものがあったんですけど、はじめて崩れたんですよね。自分の人生が『普通』じゃなくなったかもしれない、って。みんなと違うのかもしれないって、怖かったんですよね。さらに、父親も亡くして…。それは5年前くらいなんですけど、父親が体を悪くしたのは高校の時くらいで。ずっと入院を繰り返してて。これはもう『普通じゃないんだ』と。
加藤 普通に生きたい、と。
内山 ほかのひとよりはその想いは強いと思いますね。
加藤 これ、読んでたひと、急にずし〜んと来るパターンだよね。
内山 それでいきましょいきましょ(笑)
加藤 ギャップがすごいな…(笑)
-----------------------

-----------------------
加藤 で、今後バンドはどうしていくの?
内山 やめる理由はないですからね。続けて行くんだと思うんですけど、誰かがやめるって言ったら、自分もやめるかもしれないし。
加藤 あいまい(笑)
内山 でも、自分が活躍できる唯一の場所というか、ずっと続けてこられたものなので。チャンスだとは思ってるんです。だから、どこかで自分のことをもっとみんなに知ってほしいっていうのがあって。それで、NEUTRALに出たいって思って、加藤さんに連絡させていただきました。
加藤 出たい!だなんて言われたのはじめてだったから焦ったよね。嬉しかったけど。でも、正直言うと、ウッチーって普通のひとって印象だったから、一体なに話せばいいんだろうって(笑)
内山 ですよね(笑) ぼくもなに話せばいいんだろうって。
加藤 でも、その後も結構しぶとかったからね、ウッチーは。じゃあなんかあるんだろうって。
内山 そうですよね。今日のテーマって『普通』ってことだと思うんですけど、自分の中にある『普通』が、どこまで通用するんだろうってのは気になってます。
-----------------------

-----------------------------------
加藤 『普通』の魅力かぁ。
内山 そう。普通だけどやれるんだぞっていうのを自分が証明したいというか。そもそも普通ってなんだっていうのはありますけどね。
加藤 こっちのセリフだよ(笑)
内山 岡崎京子の『リバーズ・エッジ』の中に『あたしにもないけどあんたらにも逃げ道ないぞザマアミロ』ってセリフがあって、あれがすごく好きで。あのセリフがぼくの中で『普通』としてリンクしてるんですよ。みんな自分のことを普通だと思ってるかもしれないけれど、『普通』って異常の集合体で出来てると思ってるんで。みんな『普通』のフリして生きてるだけで。ぼくも、みんなも本当は普通じゃない。だから、いかに自分に普通のレッテルを貼って、伝えたい想いを伝えて行くかって、いつも考えてます。それが、いまもバンドを続ける理由かもしれませんね。
加藤 ウッチー普通なんかじゃなかった(笑)
-----------------------

-----------------------
公園についてのモノやコト
内山 公園って、行政が作ったものなんだなって。自分が公務員をやってるんで改めて思うんですけど、困っている人をケアするためのものというか。そういう一面があると思っていて。生活保護とかもそうなんですけど、『普通じゃなくなってしまったひとたち』を助けたり、救ってあげたりするためにあるのかなって。実情はどうかわからないですけど、だから公園ってすべてのひとに開かれるべきというか。そうあってほしいなって思うんですよね。
加藤 でもふたをあけてみると、行政は公園から生活困難者を追い出さざるを得ないというか。誰でもいれる場所かと言うとそうじゃあない。環境をケアすることは考えていると思う。けど、その反面、本当はなんのために作ってるのか怪しい。ベンチは疲れたひとが寝れる設計になっていないし、税金払ったところでトイレは一向にきれいにならない。
-----------------------

-----------------------
内山 それって、もう行政も体力がなくて。援助を最小限にする事で自分のことは自分でやってもらうためのケア、支援っていうトレンドにシフトしていってるんですよね。体力なくなるのもわかるし。でも、やっぱり行政の役割って、もっと弱ってるひとをケアしないとなって僕自身は思っていて。そういう意味でいうと、せめて公園くらい『ゆるし』の場というか、宗教っぽくなっちゃいますけど、そういうものであってほしいなって思うんですよね。公園くらいしか最後のよりどころっていうのがないんですよね。
加藤 そうだね。それは本当にそう思う。でも行政は『生活保護』として手を差し伸べる反面、『普通』のツラして、そういうひとを『排除』する。ひとがひとを排除することが普通なのかな? って思っちゃうよね。だからウッチーがさっき言ってた普通の異常性もすごくわかる。『普通』ひとがひとを『排除』しないよね。排除以外の答えがでるまでとことん考えるべき。難しいし時間もかかるけど、それを怠慢してるだけ。花火やって騒ぐひとを追い出すのと、明日食べるものもない場所を追い出すのでは違う。
内山 そうですよね。でも、いま、公務員になって4年目なんですけど、どうやったら変えられるのかとか、良くなって行くのかずっと考えてきてて、だけど、行政の現場で働いてみて思うのは、かなりむずかしいんだなって。話を聞いてもらうためには偉くなるか、力を持たないと発言力がないんですよね。だから、普通の自分が、そこでもどれだけそこで力を持てるか、それも挑戦ですね。
加藤 いやいや、もはやぼくはもうウッチーが普通とは思ってないからね。インタビュー前と後でこんなに印象が変わったひとははじめてです(笑)
-----------------------

-----------------------
内山 博人 / HIROTO UCHIYAMA
バンド thai kick murph のギタリスト。
オフィシャルウェブサイト
thai kick murph "アイランド" (PV)
-----------------------
PARK MAGAZINE INDEX へ |